『Bloody Call』
長野和泉書き下ろしSS企画
『ある日の彼ら』

第一回:黎明
[黎明のとある一日。]





「おっす。相変わらず早いんだな、黎明」
 欠伸を噛み殺すような声が、入り口の方から飛んできた。
「司狼。どうしたんですか? ……君がこんなに早く起きてくるなんて、珍しいですね」
「いや、できれば昼まで寝てたかったんだが……さすがに、女の子との食事に遅れるわけにはいかねえからな」
「……なるほど」
 彼特有の人を食ったような物言いに鼻白みながら、視線を床へと落とすと――。
「で、台所でボウルを抱えながら、何を悩んでるんだ?」
 その言葉に、自然と身がすくむ。
 やましいことをしている訳ではないのに、即答するのはなぜかためらわれた。
 彼はそんな僕を見下ろしながら、愉快げな笑みを浮かべた後……。
「当ててみようか? 双葉ちゃんの為に朝食を作ろうとしてみたけど、食い物の好みを訊いてなかったことを思い出して、途方に暮れてる……ってとこだろ?」
「なっ――!」
 明け透けな物言いに、僕は絶句する。
 だけど彼は、平然とした調子で続けた。
「だったらそこで突っ立ってないで、本人起こして訊きに行けばいいじゃねえか。5分で行って帰って来れるだろ」
「で、ですが彼女は今、就寝中ですし……! わざわざ起こすほどの用事では……」
「わざわざ起こすほどじゃない用事で、立ち往生してたのは誰だよ。いいから、さっさと訊いて来いって――」
 司狼が言い掛けた、その時。
「ふぁああ……おはよう、2人共。何の話してるの?」
 聞き覚えのある――これまた眠そうな声が、サロンの方から聞こえてきた。
 この声は――。



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