『籠の中のアリシス』
鷹村コージ書き下ろしSS
[extracurricular lesson]




「ゲミュートの樹は気まぐれに果物を生やすことがあって──ん?」

五冊目の本を読んでいる途中、とん、と、肩に小さな重みが加わった。
なんだ? と視線を向けると、俺の肩に頭を預け、瑠奈が気持ち良さそうに寝ていた。

「……瑠奈」

それに気づいたダレンが、瑠奈に声をかけて起こそうとする。
それを俺は目線で制し、ゆっくりと中指を口元へ持っていく。

「立て続けに頭の中に情報を詰め込んだから、疲れたんだろ。もう少しこのままでいい」

その言葉にダレンは苦笑する。

「役得ですね、ハーヴェイ」
「そうか?」
「それにしても……可愛い寝顔ですね。どんな夢を見ているんでしょう」

ダレンは、すやすやと寝ている瑠奈の顔を優しく見つめる。
そして、手を伸ばし、彼女の柔らかな髪の毛を指先で弄った。

「本当に可愛いですね。このまま食べてしまいたいくらいだ」
「……おい、ダレン」
「これくらいいいでしょう? あなたは彼女に寄りかかってもらっているじゃないですか。瑠奈とそうやって触れ合えるなんて、羨ましい限りですよ」

俺はため息を一つ零してから、細い目つきでダレンを見つめる。

「……ほどほどにしとけよ」
「あなたこそ」

ダレンの言葉に、俺は瑠奈の温もりを改めて肩越しに感じて、苦笑した。

(確かに俺も……瑠奈に甘いな)

ロアクリストとして、彼女をアリシスに育て上げなければならなかった。
だからこの甘さは、不必要なものなのかもしれない。

だが、今だけは。
彼女の目が覚めるまで続けてもいいだろうと、そう思った。


──END──


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