『籠の中のアリシス』
鷹村コージ書き下ろしSS
[extracurricular lesson]
「……お仕事、随分たまっているように見えるんですけど」
「気のせいだ」
「でも……ジェラルドさん、書類に埋もれてるみたいなんですけど」
「気のせいだ!」
書類の山に埋もれているジェラルドさんも、いつもだったら『執務室で仕事をしながら心の教育をしろ!』と言ってそうなのに、今日は何も言わない。
いや、どっちかっていうと、疲れきって、何も言えない状況なのかもしれなかった。
だって、さっきから机に顔を埋めたまま、身動き一つしない。
(……だ、大丈夫なのかな)
私はジェラルドさんの様子を気にしつつ、ハーヴェイに声をかける。
「あの、ハーヴェイ。お仕事が忙しいなら、心の教育は他の人に頼みますけど……」
「だから、仕事が忙しいなんて、気のせいだって言ってるだろ? ほら、おっさんを見ろ!
あれは、ああやって休憩しているだけなんだ。だというのに、俺達が側で心の教育なんて行ったら邪魔になる。だから、外へ出よう」
「えっと、いつもジェラルドさんの側でやっていたような……」
「そうだ、瑠奈! 中庭にある噴水の側で、ルーチェの世界の歴史を教えてやろう! なかなか興味深い昔話があって、楽しいぞ〜!」
ハーヴェイは明るい笑顔を浮かべ、私の手を掴むと、そのまま執務室から外に向かって、歩き出した。
「あの、ちょっと……ハーヴェイ?」
「俺に任せておけば何も心配ないからな!」
「ハーヴェイ〜〜?!」
私はハーヴェイに手を引っ張られ、そのまま連行されていった。
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