『Bloody Call』
長野和泉書き下ろしSS企画
『ある日の彼ら』
第五回:カイン
[カインのとある一日。]
「彼女も、この店を気に入ってくれているみたいでね。よく来てくれるんだ。今日は間違って、開店前に来てしまったようだが」
「……へえ、そうなんですか。じゃあ、ボクと同じね」
笑顔でそう答えるけれど、ボクはマスターの説明なんて全然信じちゃいなかった。
もし彼の言うことが本当なら、双葉が答えを躊躇する理由なんてないはず。
おそらく彼女は、マスターに何か重大な話をする為、あるいは何かを聞かせてもらう為にここに来たのだろう。そしてそれは、他の人間には聞かれたくない話なのだと思う。
話の内容に興味がない訳ではないが――深追いは禁物だ。彼女に正体を悟られてしまっては、元も子もない。
だからボクは、いつもの軽い調子で……。
「OH、どうしました? 双葉。もしかして、雨に降られて風邪引きそうですか? だったらすぐに、シャワーを浴びて身体を温めた方がいいですよ。ほら、早く――」
そう言って、彼女が着ている制服のボレロを脱がせようとすると――。
「べ、別に風邪引きそうになんてなってないってば! っていうか、どさくさにまぎれて制服を脱がせようとしない!!」
いつもの調子で、拒絶されてしまった。
「ン〜、ボク、双葉のことを心配してただけなんですけど……誤解されてるみたいね。悲しいです」
「誤解じゃないってば。あなたの考えてることなんて、お見通しなんだから」
言いながら、ぷいっと顔をそむける双葉に、思わず苦笑が漏れてしまう。
ボクの考えてることなんてお見通し、か。
……本当に見通せてたら、そんなセリフ、絶対に出てこないと思うんだけどね。
キミは本当に素直でカワイイよ、Stupid girl.
(終)
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