『Bloody Call』
長野和泉書き下ろしSS企画
『ある日の彼ら』
第四回:久神
[久神のとある一日。]
「――先生! 久神先生、いつまで寝てるんですか? 駄目ですよ、こんな所で寝たりしちゃ! 風邪引いちゃいますよ!」
肩を揺すられる感触で、眠りの中にあった意識が呼び覚まされる。
「ん……んっ?」
目を開けると、窓からは黄金色の夕日が射し込んでいた。
十分だけ仮眠を取るつもりが、つい熟睡してしまったらしい。
「大丈夫ですか? お疲れなら、ベッドでゆっくり休んだ方がいいんじゃ?」
見慣れないその女生徒は、私を気遣ってか、そう言ってくれる。
「いや、単なる寝不足だ。心配は要らない――」
そう言って立ち上がろうとした時、肩にかけられていたとおぼしきブランケットが、はらりと落ちた。
いつ掛けられたものなのだろう? まったく覚えがない。
「これは……君が掛けてくれたのか?」
「いえ、違います。わたしが入って来た時には、既に掛けてありましたけど」
「ふむ……」
床に落ちたブランケットを拾い上げた時、独特の匂いが鼻をつく。
柑橘のような、爽やかな匂い。これは、もしや……。
「わざわざ持ってきて掛けてくれたのか? 物好きなことをする」
そう呟く唇が、ひとりでに笑んでしまう。
「えっ? 物好きって……何がですか?」
傍らにいる女生徒は、不思議そうに問いかけてきた。
「いや、何でもない。独り言だ」
そう言った後、私はブランケットを畳み、机の上へと置いた。
終業を告げるチャイムが、静かな保健室に響き渡った。
(終)
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