『Bloody Call』
長野和泉書き下ろしSS企画
『ある日の彼ら』
第二回:司狼
[司狼のとある一日。]
「……双葉ちゃんの処遇に関しては、黎明の奴とも散々言い合ったんだが、あいつ、俺の意見なんて聞きゃしねえから」
肩をすくめ、本心を口にする。
俺の言葉に、彼女は少しだけ警戒を解いた表情になった。
そして――。
「だったら……どうして司狼は、黎明の言う通りにしてるの?」
ためらいながら、そんな問いを投げかけてきた。
俺は無言のまま、双葉ちゃんから目をそらす。
なぜあいつと意見を異にしながら、彼の言う通りにしているのか。理由はもちろんあるけれど――。
「……ま、色々事情があってな。なるべく、あいつの望む通りにしてやろうと思ってるんだ」
それを口にするのは気が咎めて、軽口でごまかしてしまう。
双葉ちゃんは、納得いかない表情でしばらくの間、俺を見つめていた。
俺は、そんな彼女の細い手首をつかみ……。
「それより、行こうぜ。こうやって外に出られる機会なんて滅多にないんだ。せっかくだから、たっぷり寄り道して帰らねえとな」
「あっ、ちょ、ちょっと――」
戸惑ったままの双葉ちゃんの手を引いて、彼女が喜んでくれそうな場所へと連れて行く。
楽しい時間というのは思いの外、過ぎるのが早いもので、屋敷に着く頃には、時刻は既に夜の九時を回っていた。
――当然ながら、台所で俺達の帰りを待ち続けていた黎明の奴にクドクドと説教されたのは、言うまでもない。
(終)
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