『Bloody Call』
長野和泉書き下ろしSS企画
『ある日の彼ら』
第一回:黎明
[黎明のとある一日。]
取るに足らない、些細な問いのはずだ。緊張する必要なんて、どこにもないはず。
だというのに、彼女の瞳を真っ直ぐ見つめているのが、どうにも面映く思えて……。
懸命に気を落ち着かせながら、僕は改めて――その問いを口にする。
「今日の朝食は、キャロットポタージュにしようと思っているのですが、その……お好き、ですか?」
彼女は、一瞬だけきょとんとした表情になった後、不意に笑顔を浮かべ――。
「うん、大好き!」
明るい口調で答えてくれた。
素直そのものの反応を目にして、先程までの緊張が、嘘のように消えてしまっていることに気付く。
「……そうですか、良かった。では、向こうでお待ちください。すぐにお持ちしますから」
「うん、楽しみにしてるね。黎明が作るご飯って、美味しいから」
彼女は嬉しそうに言ってくれた後、サロンへと向かう。
『楽しみにしてる』。微笑みと共に向けられたその一言に、どうしてこんなにも胸の奥が温かくなるのか――自分でも、よく分からなかった。
ただひとつはっきりしているのは――彼女の為に食事を作るという行為に、少なからず楽しさを見出し始めているということ。
僕は袖口を軽くまくり上げてから、司狼の方を振り返り――。
「さて、それじゃ急いで支度をしますか。手伝ってくれますね? 司狼」
彼女の為の朝食の準備を再開することにした。
司狼は小さな欠伸をした後、「OK」と答えてくれた。
(終)
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